生涯教育コラム:癌

進行・再発大腸癌における化学療法

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伊野 陽子, Pharm.D.

はじめに

大腸癌は現在日本における癌罹患率の2位を占め、年間10万人以上が罹患し、約4万人が亡くなっている1)。早期に発見すれば手術・内視鏡での治療も望めるが、切除不能と判断された転移・再発大腸癌の予後は約8カ月と報告され、現状では治癒させることができない2)。化学療法の目標は,腫瘍増大を遅延させて症状コントロールを行うことである。転移・再発大腸がんは新規薬剤の登場により治療成績が向上しており、ここ数年で急激な進歩を遂げている。今回は進行・再発大腸癌治療における抗癌剤治療の歴史、新規薬剤である分子標的薬についてまとめた。

学習目的

1.進行・再発大腸癌における化学療法の変遷を理解する。

2.進行・再発大腸癌に対する現在の標準治療を理解する。

3.各薬剤の特徴・副作用を理解する。

これまでの治療の変遷

 切除不能転移・再発大腸癌でBSC(Best supportive care)群(積極的な治療は行わず症状緩和のみを行うこと)と、化学療法群の生存率を比較したメタアナライシスにおいて、生存期間中央値(MST)が8か月から12か月に延長することが示されており3)Performance Status(PS)のよい症例では積極的に化学療法を行うことが勧められている。

1957年の5-fluorouracil(5-FU)の開発以降、Leucovorinと併用する5-FU/LV療法が進行・再発大腸癌治療の中心的存在であった。その後1990年代にirinotecan(CPT-11)が登場し、5-FU/LV療法にCPT-11を加えることによりMST、無増悪生存期間(PFS)ともに2~3か月の延長がみられ4,5)5-FU/LVCPT-11併用療法(FOLFIRIIFL)が標準治療となった。2000年に入り5-FU/LV療法と5-FU/LVOxaliplatinL-OHP)を加えたFOLFOX4の比較試験が行われ、MSTでは有意な差は得られなかったものの(14.7か月 vs. 16.2か月、p=0.12PFSFOLFOX4群が優位に優れていることが示された(6.2か月 vs. 9.0か月、p=0.00036)。またTournigandらは5-FUの投与法を持続静注法で統一し、初回化学療法としてFOLFOXFOLFIRIとの直接比較試験(GERCOR試験)を行った。FOLFOX6またはFOLFIRIを施行し、病勢進行(PD)と判定されたのちに、クロスオーバー(ある治療群2つを比較する試験で一方の治療を受けてから他方の治療へ切り替えること)を行いそれぞれFOLFIRIまたはFOLFOX6に移行するデザインであるが、MST20.6 vs. 21.5か月、p=0.99PFS(8.0 vs. 8.5か月、p=0.26 )ともに結果は同等であった7)。またこの3剤を組み合わせることによりMST20か月を超えることが示され、5-FUCPT-11L-OHPkey drugをどの順番でもよいので十分に使い切ることが生存期間の延長には重要であると考えられている8)

なおFOLFIRI療法とFOLFOX療法の副作用を比較すると、嘔気、下痢などの消化器症状・脱毛はFOLFIRI療法に多く、FOLFOX療法にはL-OHPによる末梢神経障害が多い。これらの副作用について患者に説明し、どちらの治療を選択するか患者と話し合うことが重要である。CPT-11は脱毛の発現率が高い薬剤であるが、脱毛はセルフイメージとQOLの点から重大な問題となり、治療が長期に及ぶだけに患者本人の覚悟が必要となる。治療終了後に髪はまた生えてくることを説明し、治療開始前に髪を短くしておくことや、かつら、バンダナの使用を勧めるなど対応方法のアドバイスが必要となる。L-OHPによるしびれは投与当日から5日目くらいまでに起こる急性のものと、慢性のものとがある。急性のしびれは冷刺激により誘発されるため、治療後数日は冷たいものを触る、飲むなどの冷刺激を避けるように患者に説明する必要がある。また慢性のしびれは用量依存性の副作用であり、平均して10コース目より神経障害が出現し、治療中止後の回復までの平均期間は13週間との報告がある9)PD以外でこれらの副作用による治療の中止が多いため、深刻な末梢神経障害が起こる前にL-OHPを中止し、ある程度の休薬期間ののちにL-OHPを再開して治療を継続する”STOP and GO” Conceptを検討するための試験(OPTIMOX1)が行われた。FOLFOX4PDとなるまで継続する群と、FOLFOX76コース行った後にL-OHPを抜いた治療を12コース施行、その後FOLFOX76コース行う群を比較した。その結果、MSTに大きな差はなく(FOLFOX4 19.3 vs. FOLFOX7 21.2か月、p=0.49)、Grade3/4末梢神経障害(Grade:有害事象の重症度を評価するために使用される世界標準分類)がFOLFOX7群において7コース目以降、減少した(17.9% vs. 13.3%p=0.1210)。 末梢神経障害によりQOLの低下を訴える患者に対して、L-OHPを一旦休薬し、症状改善後に再開するという治療も選択肢の一つとなる。

切除不能転移・再発大腸癌に対する標準治療

現在、国内外の第Ⅲ相試験により、生存期間の延長が検証され、日本国内で使用可能な治療レジメンは以下の通りである2)

(1)  FOLFOX (infusional 5-FU/l-LV + L-OHP)

(2)  FOLFIRI (infusional 5-FU/l-LV + CPT-11)

(3)  IFL (bolus 5-FU/l-LV + CPT-11)

(4)  5-FU/l-LV 療法:RPMI法、またはde Gramont法、sLV5FU2法、AIO法)

(5)  UFT/LV

治療の中心は5-FUCPT-11L-OHP3剤であり、PSが良好で、臓器機能が温存されている患者に対して、 FOLFOX4, FOLFIRI療法に分子標的薬であるbevacizumab (BV)を併用するのが初回化学療法の標準治療と考えられている11

分子標的薬の登場

2003年、血管内皮細胞増殖因子(VEGF: vascular endothelial growth factor)に対する抗体であるBVが誕生し、大腸癌に対して効果が認められた。現在日本においては「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」に対して承認を受けている。

BVは血管新生阻害により、臨床効果を認めていると考えられてきたが、単剤では臨床効果を示さず、化学療法との併用にて効果を示すことから、抗癌剤の腫瘍組織内への浸透を促進する機序や、骨髄由来のprogenitor cell(EPC)の誘導作用など複雑な作用機序が考えられている。BVはヒト化モノクローナル抗体であり、IgG1の可変領域のうち、直接抗原と接触する部分のみマウス由来にして、他をすべてヒト化由来とした抗体である。可変領域をすべてマウスのまま保存しているキメラ抗体(rituximabcetuximab)に比べると、マウス由来の蛋白に対する抗体の出現や、infusion reaction(点滴時の過敏反応)は減少している12)。治療効果に関しては、IFL療法にBVを上乗せした第Ⅲ相臨床試験(AVF2107試験)において、IFL vs IFL+BVMST15.1 vs 20.5か月(p<0.001)と有意差が報告され、BVの上乗せ効果が示された13)L-OHPとの併用ではTREE試験(第Ⅲ相試験)において、L-OHPを含んだ治療にBVを併用することで、5~6か月程度MSTの延長が示された14)BV併用レジメンでどこまで治療を継続するべきか?という疑問については、BV併用療法に不応となった症例に対してBVの継続治療の意義をプロスペクティブに検証した結果はまだない。米国におけるBVの市販後調査(BRiTE)において初回のBV併用療法にてPDとなった症例の中で、その後BVが投与されなかった症例と継続投与された症例を比較した場合、初回化学療法増悪からのMST9.5 vs 19.2か月、初回化学療法開始からのMST19.9 vs 31.8か月と継続投与群で良好な成績が見られており、初回治療BV併用後の2次治療においてもBV併用の有効性が報告されている15)。しかし、BV投与継続で予後が延長したのか、BVが継続できる全身状態だから予後が延長したのかは明確になっておらず、初回治療BV併用後の2次治療でのBVの継続使用は今後の検討課題(iBET, AIO試験で臨床試験中)である。

BVに特徴的で頻度の高い副作用として高血圧、出血(鼻出血が多い)、タンパク尿が、頻度は高くないが重篤となるおそれのある副作用として消化管穿孔、創傷治癒遅延、動脈/静脈血栓塞栓症がある。これらの副作用の可能性についてあらかじめ患者に説明し、経験がないほどの強い腹痛がある場合は速やかに医療機関に連絡するよう説明し、ポート造設患者ではポート造設も血栓の要因となるため、血栓症の初期症状(四肢の疼痛、腫脹、色調の変化)に留意し、必要に応じて凝固系検査を実施し異常の有無を確認することが重要である16)

 Cetuximabは、ヒト上皮細胞増殖因子受容体(EGFR: Epidermal Growth Factor Receptor)を標的とする免疫グロブリンG1IgG1)サブクラスのヒト/ マウスキメラ型モノクローナル抗体である。EGFRに結合し、シグナルの活性を阻害することにより、細胞分化や血管新生、転移、増殖などを幅広く抑制する。EGFR陽性でCPT-11不応例に対してのCetuximab単独療法とCetuximabCPT-11併用療法との比較試験(BOND-1試験)においてPFSの延長が見られ(1.5 vs 4.1か月、p<0.001)、CetuximabCPT-11併用群の優越性が示された17)。また初回治療例においてもFOLFIRI+Cetuximab併用療法とFOLFIRI療法を比較した第Ⅲ相試験(CRYSTAL試験)において有意にPFSの延長(8.9か月 vs 8.0か月、p=0.036)が示された18)。その後2008 ASCO meetingにてKRAS野生型とKRAS変異型の比較が行われ、KRAS野生型ではPFSの延長が見られたが(9.9 vs 8.7か月 p=0.017)KRAS変異型ではPFSに差がない(7.6 vs 8.1か月 p=0.47)という結果が得られ、KRAS変異はcetuximabの効果を予測する重要な因子と考えられている。

またBVが単剤では効果がなく化学療法との併用が必要であるのに対し、cetuximabでは単剤でも治療効果が見られている。標準治療(5-FUCPT-11およびL-OHP3剤の不応例に対して、BSCcetuximab+BSCを比較した試験(NCIC CTG CO.17試験)においてMSTの延長が示され(4.6 vs 6.1か月、p=0.0046)、腸閉塞などのリスクでCPT-11が併用しがたい状況下でもcetuximab単剤での治療の意義を示した19)

Cetuximabに特徴的な副作用として、89割の患者に皮膚障害(ざ瘡、発疹、皮膚乾燥、爪囲炎など)がみられる。皮膚症状は生命への直接的な影響が少ないと考えられることから、症状が現れても治療の多くは継続される。しかし、外見的な変化による心理的苦痛、激しいそう痒感などQOLへの影響は大きい。このため、患者への事前説明と症状に応じた適切な対応が重要となる。発疹は顔面や頸部など上半身に多く出現する。たその発現時期はざ瘡様皮疹は3週以内の発現が多く、5週目以降に皮膚乾燥・亀裂が見られ始め、8週以降に爪囲炎が出現する。対策として、症状に応じてステロイド剤・抗生剤を使用する。患者に対しては予防として皮膚を清潔に保つこと、保湿剤の使用、低刺激性の石鹸の使用などをすすめる。ただ患者にとっては辛い皮膚症状であるが、この皮膚反応が奏功率と相関することもさまざまな臨床試験で明らかになっている1719)。そのほかに特徴的な副作用として、頻度は高くないがinfusion reaction、低Mg血症、間質性肺炎などがある。

現在日本においてCetuximab(アービタックス®)は「EGFR陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」に対して承認されており、効能・効果に関連する使用上の注意として「一次治療としての本剤の有効性及び安全性は確立していない」との記載があるが、NCCNのガイドラインではcetuximabKRAS野生型の患者に対しての一次治療としている。2009年には日本の大腸がん治療ガイドラインが改定される予定であり今後の動向に注目していきたい。

追記)FOLFOX infusional 5-FU/l-LV + L-OHPを組み合わせたレジメンであるが、投与量や投与スケジュールの違いにより番号が振り分けられている。FOLFOX4 http://www.gi-cancer.net/gi/regimen/regimen_06.htm

FOLFOX6 http://www.gi-cancer.net/gi/regimen/regimen_07.htm

FOLFOX7 http://www.gi-cancer.net/gi/regimen/regimen_08.htm

練習問題

問題1.正しいものを選びなさい。現在進行・再発大腸癌においてkey drugとされているものは a) 5-FU, leucovorin, cisplatin

        b) oxaliplatin, 5-FU, irinotecan

        c) 5-FU, irinotecan, cisplatin

問題2.正しいものを選びなさい。

a)    CPT-11に特徴的な副作用は末梢神経障害である。

b)    BVに特徴的な副作用は高血圧である。

c)     L-OHPに特徴的な副作用は皮膚障害である。

問題3CetuximabKRAS変異型の患者において高い効果を示す。正 または 誤?

Reference

1.     国立がんセンターがん対策情報センター accessed May 6th, 2009

2.    大腸癌治療ガイドライン 大腸癌研究会編/医療・GL(2005) http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0042/1/0042_G0000124_GL.html

3.    Simmonds PC: Palliative chemotherapy for advanced colorectal cancer: systematic review and meta-analysis. Colorectal Cancer Collaborative Group. BMJ 2000; 321: 531-535.

4.    Saltz LB, Cox JV, Blanke C, et al : Irinotecan plus fluorouracil and leucovorin for metastatic colorectal cancer. Irinotecan Study Group. N Engl J Med 2000; 343: 905-914.

5.    Douillard JY, Cunningham D, Roth AD, et al: Irinotecan combined with fluorouracil compared with fluorouracil alone as first-line treatment for metastatic colorectal cancer: a multicentre randomised trial. Lancet 2000; 355:1041-1047.

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8.    Grothey A and Sargent D: Overall survival of patients with advanced colorectal cancer correlates with availability of fluorouracil, irinotecan, and oxaliplatin regardless of whether doublet or single-agent therapy is used first line. J Clin Oncol 2005; 23: 9441-9442.

9.    Grothey A: Oxaliplatin-safety profile: neurotoxicity. Semin Oncol. 2003 ;30(4 Suppl 15):5-13.

10.  Tournigand C, Cervantes A, Figer A, et al: OPTIMOX1: a randomized study of FOLFOX4 or FOLFOX7 with oxaliplatin in a stop-and-Go fashion in advanced colorectal cancer--a GERCOR study. J Clin Oncol 2006; 24: 394-400.

11.  岩佐 悟、島田 安博:切除不能進行・再発大腸癌に対する薬物療法 癌と化学療法 2008; 35: 1467-1474

12.  下山 達:ベバシツマブ(アバスチン®)癌と化学療法 2009; 36: 523-530.

13.  Hurwitz H, Fehrenbacher L, Novotny W, et al: Bevacizumab plus irinotecan, fluorouracil, and leucovorin for metastatic colorectal cancer. N Engl J Med 2004; 350: 2335-2342.

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