書籍紹介 (2)
上田 彩 MRPSGB,MSC
タイトル:Medications and Mothers Milk: A Manual of Lactational Pharmacology
Thomas W., Ph.D. Hale (著)
出版社: Pharmasoft Medical Pub; 13版 (2008/07)
ISBN-13: 978-0981525723
発売日: 2008/07
サイズ: 21.3 x 11.2 x 4.8 cm
本邦における授乳婦への薬の安全性のデータが不足していることから、海外の資料を利用することが多く、“Briggs“(Drugs in Pregnancy and Lactation)やDrugdexのReprotoxなどのデータベースが医薬品情報室において一般的に使用されている。しかし上記の資料においても、授乳婦への薬の安全性についての記載は少ない。そこで今回は、授乳における薬物治療の専門書を紹介する。
本書の特徴としては、著者Dr Haleが分類したラクテーションリスクカテゴリーと米国小児科学会(AAP)のラクテーションステートメント(1)の記載がある。
Dr Haleのカテゴリー
L1 Safest:
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多くの授乳婦において使用され、乳児における副作用が報告されていない薬剤。 対照試験において、授乳婦において乳児へのリスクが否定された、または授乳された乳児における有害性は考えにくい。もしくは、経口投与において乳児に生物学的に利用されない薬剤。 例 アセトアミノフェン |
L2 Safer:
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限定された人数の限定された数の授乳婦において使用され、乳児における副作用が報告されていない薬剤。また/もしくは授乳された乳児における有害性は考えにくい。 例 アシクロビル、ハロペリドール、メトロニダゾール |
L3 Moderately Safe
|
授乳婦における対照試験がないが、乳児への副作用のリスクがある、もしくは、対照試験において限定された重篤ではない副作用のある薬剤 有益性が乳児へのリスクを上回る場合においてのみ使用する薬剤。(データのない新薬は、このカテゴリーに分類される) 例 アスピリン、フェノバルビタール、サルファサラジン、ラモトリジン |
L4 Possibly Hazardous
|
乳児における副作用や乳汁分泌における有害性があるが、リスクにも関わらず、有益性が上回る場合において使用する場合がある薬剤。(例 生命に関わる治療において、安全な薬剤がないか、有効でない場合など) 例 コルヒチン、ガリウム67 |
L5 Contraindicated
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対照試験において、授乳婦において乳児への重大な有害性が報告されている、または乳児に有害な作用を起こす薬剤。乳児への有害性が有益性を上回る薬剤。授乳中の女性に禁忌の薬剤。 例 シクロフォスファミド、コカイン |
米国小児科学会(AAP)のラクテーションステートメント
“Compatible” |
Maternal medication usually compatible with breastfeeding 授乳中に使用可能な薬剤 例 アセトアミノフェン、アシクロビル、コルヒチン |
“Caution” |
Drugs that have been associated with significant effects on some nursing infants and should be given to nursing mothers with caution 乳児における副作用があり、授乳中の使用に注意が必要な薬剤 例 フェノバルビタール、サルファサラジン、アスピリンなど |
“Unknown but concern” |
Drugs for which the effect on nursing infant is unknown but may be of concern 乳児への影響が不明であるが問題がある可能性がある薬剤 例 メトロニダゾール、ハロペリドール、ラモトリジンなど |
“Radioactive compounds” |
Radioactive compounds that require temporary cessation of breastfeeding 放射性薬剤であり、授乳を一時中断すべき薬剤 例 ガリウム67 |
“Drugs of abuse” |
Drugs of abuse for which adverse effects on the infant during breastfeeding 習慣性があり、乳児への副作用がある薬剤 例 コカイン |
“Cytotoxic drugs” |
Cytotoxic drugs that may interfere with cellular metabolism of the nursing infant 抗腫瘍薬であり、乳児の細胞代謝に影響をあたえる薬剤 例 シクロフォスファミド |
HaleとAAPでは、分類が異なるので注意が必要である。例えば、メトロニダゾールとハロペリドールはHaleのカテゴリーでは”L2 Safer”に分類されるが、AAPでは“Unknown but concern”に分類されるなど、整合性がとれない場合もある。またAAPのステートメントはすべての薬剤において発表されていないため、カテゴリーだけでは安全性の評価は難しい。 必ず、各薬剤のモノグラフの内容を確認するべきである。
薬剤モノグラフ
モノグラフには、薬剤の乳汁移行に関するデータや乳児における副作用などの報告が記載されている。以下の薬剤のパラメーターが記載されており、授乳婦への治療薬の選択に有用な情報である。
1) 分子量:分子量500以下の薬剤は細胞膜の細孔を通って乳汁中に移行する。
2) 蛋白結合率:蛋白結合率が高い(90%以上)薬剤は乳汁への移行性が低い
3) 薬剤解離定数(pKa):pKaが高いほど(>7.2)、乳汁への移行性が高い
4) M/P比(milk:plasma ratio):薬剤の母乳中濃度/母体血漿中濃度を指し、血漿中から母乳中への薬剤の移行性しやすさを表す。M/P比<1で薬剤の移行性が低い。しかし、母体血漿中濃度が低い薬剤においては、M/P比が高くても問題にならない。
5) 半減期:乳汁への移行性を考慮する際、薬剤の半減期は短いものが好ましい。また小児における半減期(Pediatric Half Life PHL)も記載されており、半減期の延長、蓄積などが予測される
6) 生体利用率(bioavailability):生体利用率が低い薬剤は乳児への影響が少ない。
7) Tmax:薬剤が投与され、母体の血漿中濃度が最大となる時間。一般に、母体の血漿中濃度が高いと、乳汁への移行が高くなる。この時期に授乳を回避することが望ましい。
8) Theoretic infant dose :乳汁から乳児が一日に摂取すると予測される量
9) Relative infant dose(RID):母親への投与量に対する乳児の摂取量の割合
RID = 乳児の摂取量(mg/kg/day)/母親の投与量(mg/kg/day)x100
RID<10%であれば通常安全とされている。
他には、乳児への影響をPediatric Concernsとして、乳汁からの薬剤摂取により、乳児において報告されている副作用が記載されており、他の選択可能な薬剤があれば、Alternatives(代替薬)として記載されている。
例) 抗てんかん薬
|
カルバマゼピン |
バルプロ酸 |
フェニトイン |
Dr Haleの カテゴリー |
L2 |
L2 |
L2 |
米国小児学会 |
Compatible |
Compatible |
Compatible |
T1/2 PHL |
18-54 hrs 8-28 hrs |
14 hrs 10-67 hrs |
6-24 hrs 20-160 hrs |
Tmax MW |
4-5 hrs 236 |
1-4 hrs 144 |
4-12 hrs 252 |
M/P PB |
0.69 74% |
0.42 94% |
0.18-0.45 89% |
pKa Relative Infant Dose |
7.0 4.35% |
4.8 0.68% |
8.3 7.74% |
乳児における副作用など |
眠気 |
肝酵素・血小板の変動 |
傾眠・哺乳量低下 メトヘモグロビン血症 母体の血中濃度を低値(10μg/ml)に維持 |
本書を使用する上での注意点としては、海外でのみ使用されている薬剤などのデータもあり、また本邦にしかない薬剤においてはデータがないため、使用できない。
参考文献
(1)The transfer of drugs and other chemicals into human milk. Pediatrics 108:3:776-789 2001
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