骨粗鬆症予防と一般的非薬物療法
畔田 名穂子,Pharm.D., MS
はじめに
高齢化社会の中でさまざまな慢性疾患が著しく増加しているのはいうまでもないが、特に大きな問題となっている疾患として「骨粗鬆症」が挙げられる。主な合併症である骨折は高齢者の生命予後に影響し、またQOL(Quality of Life: 生活の質)を悪化させるためその予防が極めて求められている。
現在、世界で少なくとも約2億1)、アメリカ合衆国では約2千万人もの人々が骨粗鬆症を患らっている2-3)。一方、日本でも1,000万人の患者がいると推定され4)、女性が全体の7~8割を占める疾患とされている。
WHO (世界保健機関)は「骨粗鬆症とは、骨量の減少と微細構造の劣化によって骨の脆弱性が悪化し、骨折の危険性が高まった全身性疾患」と定義している。正常時は常に骨芽細胞と破骨細胞によってバランスよく骨の形成・吸収が行われ、古い骨を壊し新しい骨を作り一定の量を保っている。しかし、骨粗鬆症はこのバランスが崩れ、破骨細胞による骨吸収が骨芽細胞による骨形成を上回り、その骨量が一定を保てずに減少するために引き起こされる。今回は、骨粗鬆症の予防と非薬物療法を中心にお話しする。
学習目的
1.骨粗鬆症の危険因子の理解
2.骨粗鬆症の診断方法の理解
3.骨粗鬆症に対する非薬物療法の理解
骨粗鬆症の危険因子
本症の主要因としては性ホルモン・加齢が挙げられる。どの年代の人でも起こり得る疾患だが、高齢になるにつれ明らかに骨量は減少する。Levineらの研究では、50歳以上の人が骨粗鬆症になる危険性は55%と報告されている2)。高齢女性が骨粗鬆症になる危険が高いのは、エストロゲンの産出量が閉経後に急速に低下するからである。高齢男性では、テストステロン量の減少が骨密度の低下につながると考えられている。その他の要因としては、人種(欧米白人またはアジア系の人種)、体型(運動をしないやせた体型・低い身長)、家族歴、ライフスタイル(喫煙・過剰なアルコール摂取)・食事(カルシウム・ビタミンDの不足した動物性たんぱく過多の食事),骨量減少をきたしやすい合併症(ステロイド使用、関節リウマチ、副甲状腺・甲状腺機能亢進症、運動機能障害例、胃切除、栄養不良あるいは体重減少)などが考えられる。
骨粗鬆症の診断法5)
骨粗鬆症の診断法は、主に2つに大別できる。1つは胸椎・腰椎のレントゲン写真で骨の様子を診る検査で、もう1つは骨密度などを測定し、数字によって判断する検査である。
WHO の骨粗鬆症診断基準は骨密度だけで骨粗鬆症を判定する仕組みになっており(表1)、骨密度はすべてT-スコア(若年期最大骨量に対する割合)で算出される。一方、日本の原発性骨粗鬆症の診断基準は、骨密度に脆弱性骨折の既往・合併を加えて判定されるものである(表2)。
表1 WHOの診断基準5)
正常 ( Normal |
骨量もしくは骨密度が若年成人平均値を下回ること1SD以内 |
低骨密度 (Low Bone Mass or Osteopenia) |
骨量もしくは骨密度が若年成人平均値を下回ること1-2.5SDの範囲内 |
骨粗鬆症 (Osteoporosis) |
骨量もしくは骨密度が若年成人平均値を下回ること2.5SD以上 |
重症骨粗鬆症 (Established Osteoporosis) |
骨量もしくは骨密度が若年成人平均値を下回ること2.5SD以上であり、骨脆弱性亢進による骨折が1つ以上存在 |
表2 原発性骨粗鬆症の診断基準5) |
低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を認めず,骨評価の結果が下記の条件を満たす場合,原発性骨粗鬆症と診断する。 |
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I 脆弱性骨折あり |
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II 脆弱性骨折なし |
| ||
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骨密度値 |
脊椎エックス線像での骨粗鬆化 |
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正常 |
YAMの80%以上 |
なし |
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骨量減少 |
YAMの70~80% |
疑いあり |
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骨粗鬆症 |
YAMの70%未満 |
あり |
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骨粗鬆症の一般的な治療(非薬物療法)5-6)
骨粗鬆症の治療で最も重要なものの一つは食事である。カルシウム、ビタミンD、ビタミンKの摂取はもちろん、エネルギーおよび各栄養素がバランスよく整った食事の摂取が必要不可欠である。また,高齢者ではタンパク質摂取量が少ない場合が多いため,骨量減少を助長している可能性もあると報告されており7),カルシウムやビタミン摂取だけではなく,適度なタンパク質摂取も必要である。
カルシウム
Keenらによる研究によると、カルシウム投与が加齢による骨量の低下を50%ほど減少させたという結果がでている8)。また、Chapuyらの研究では、高齢女性を対象に1日あたりカルシウム1,200mgとビタミンD800IUの投与により,1年半後の骨折の発生が抑えられたという報告もある9)。しかし、カルシウム摂取量を維持するだけで,骨粗鬆症治療もしくは骨折の予防が期待できるわけではなく,カルシウム摂取はあくまでも基本的な治療とされるべきである。薬剤(ビスフォスフォネート,PTH,SERM,カルシトニン)の効果を最大限にするためには,カルシウムやビタミンDの摂取が有効であるという報告もある10)。
骨粗鬆症や骨折の予防のために推奨されているカルシウム摂取量は1日800mgである11)。しかしながら、近年カルシウム摂取の低下が著しく、日本人が実際に摂取しているカルシウムの量は1日540mg程度で、全ての年代で厚生労働省の定める必要量を満たしていない12)。
もちろんカルシウムが豊富に含まれている食品(牛乳・乳製品・緑黄野菜・大豆・小魚・魚介類)の摂取は大切であるが、薬剤師として、適切なカルシウム剤・サプリメントの選択に対する情報を提供することも重要である。カルシウムの吸収は小腸で行われる。加齢と共に腸管からのカルシウム吸収率は低下するため、これを補う目的で、腸管からの吸収が最もよいとされている乳酸カルシウムが主に用いられている。カルシウムの吸収を最大限にするには患者が1回の服用量を500-1,000mgを超えない量でそれを1日何回かに分けることである。ある食物は腸管でカルシウムと結合することによってその吸収を妨げる可能性がある。例えばOxalic Acid (シュウ酸)を含むほうれん草、コラードの若葉、サツマイモ、豆など、またPhytic acid(フィチン酸)を含む小麦のパン、豆、穀物、ナッツ、大豆類などである。これらの食物を摂取するときはカルシウム剤との併用に気を付けなければならない。
カルシウム摂取が引き起こす一般的な副作用として、便秘があげられる。これを防ぐためには、食物繊維と十分な水分の摂取が必要である。また1日当り3g以上ものカルシウムを長期間摂取した場合、高カルシウム血症を発症する危険性が高くなる。それに伴い、腎結石やマグネシウム欠乏症の発症へとつながることもある。
ビタミンD
ビタミンDは小腸におけるカルシウムの吸収を高める重要な因子である。成人におけるビタミンDの食事摂取基準は5μg(200IU)/日である。さらにカルシウム吸収率の低下や活性型ビタミンD値の低下がみられる高齢女性では,ビタミンDの摂取が特に不可欠である。できるだけ多くのビタミンDを摂取(800-1,000IU)することが、高齢者の更なる骨折の危険性を減少させるという報告もある2)。ビタミンDは主に魚類,きくらげなどに多く含まれている。また、ビタミンDは食事からの摂取だけでなく、日光浴をすることによっても得ることができ、夏なら木陰で30分、冬なら1時間程度自然に日に当たることが重要である。
ビタミンDは一日50μg(2,000IU)以上摂取すると、ビタミンD過剰症・ビタミンD中毒を引き起こす可能性がある。腸管からのカルシウム吸収が促進されると血中カルシウムの濃度が上昇し、さらに高カルシウム血症を引き起こす。症状は食欲不振・倦怠・頭痛・下痢・脱水症状・血管壁や内臓器官などのカルシウム沈着などがあげられ、腎臓へのカルシウム沈着がおこれば尿毒症を引き起こす可能性もある。
ビタミンK
ビタミンKは、骨形成を促進させ、骨吸収を抑えるはたらきがあることから、積極的な摂取が勧められている栄養素の一つである。大腿骨近位部部骨折の患者において、低い血中ビタミンK濃度がみられたとの報告もある13)。
ビタミンKは特に納豆,緑黄色野菜に多く含まれる。通常の食生活によるビタミンKの過剰症はほとんどみられないが、健康食品やサプリメントによるビタミンKの急性過剰摂取によって引き起こされる貧血や血圧低下に注意する必要がある。
骨粗鬆症治療のためのそれぞれの栄養素の一日摂取目標量を下記に示す(表3)。
表3 骨粗鬆症治療のためのカルシウム,ビタミンD,ビタミンK摂取一日目標量5) |
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カルシウム |
800mg以上,食事で十分に摂取できない場合には,1,000mgのサプリメントを用いる。 |
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ビタミンD |
400~800IU(10~20µg) |
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ビタミンK |
250~300µg |
その他の骨粗鬆症に対する予防5)
骨粗鬆症予防において、食事と同様に重要と考えられるのが適度な運動である。その効果は、メタアナリシスにおいて,閉経前後の女性14),または閉経後の女性15)に対して,骨量減少予防あるいは骨量の増加に有効であることが示されている。
運動は骨に荷重がかかっていることが必要であり、その適度な運動で骨が刺激されると、体内に入ったカルシウムが有効に使われ、骨量が増える。特に、重量挙げのような負荷の大きい運動ほど有効であるが、散歩やエアロビクスなども通常有用である。
そのほか、喫煙・飲酒はカルシウムの吸収を減らし、カフェイン・食塩・糖分の摂取は尿へのカルシウム排泄を増加させる働きがあるので、これらの摂取制限を日ごろから心がけることも重要である。
練習問題
問題1.正しいものを選びなさい。
a) 骨粗鬆症の主な要因としては性ホルモン・加齢が挙げられる。
b) 喫煙やアルコール摂取は骨粗鬆症を引き起こす要因として考慮されない。
c) 骨粗鬆症は男性が全体の7~8割を占める疾患とされている。
問題2.骨粗鬆症や骨折の予防のために推奨されているカルシウム摂取量は1日800mgである。 正 または 誤?
問題3.誤っているものを選びなさい。
a) 1日当り1g以上ものカルシウムを長期間摂取した場合、高カルシウム血症を発症する危険性が高くなる。
b) 成人におけるビタミンDの食事摂取基準は5μg(200IU)/日である。
c) カルシウムやビタミン摂取だけではなく,適度なタンパク質摂取も必要である。
参考文献
1. Lane NE. Epidemiology, etiology, and diagnosis of osteoporosis. Am J Obstet Gynecol. 2006;194(suppl):S3-S11.
2. Levine JP. Pharmacologic and nonpharmacologic management of osteoporosis. Clin Cornerstone. 2006;8:40-53.
3. Osteoporosis. National Institute of Arthritis and Musculoskeletal and Skin Diseases. www.niams.nih.gov/Health_Info/Bone/Osteoporosis/Default.asp. Accessed February 21, 2009.
4. 財団法人 骨粗鬆症財団.http://www.jpof.or.jp/. Accessed February 14, 2009.
5. 骨粗鬆症の予防と治療GL作成委員会/編(06年)/ガイドライン.http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0046/0046_ContentsTop.html. Accessed February 21, 2009.
6. Joseph TD, et al. Pharmacotherapy – A Pathophysiologic Approach. Fifth edition. New York
7. Bonjour JP, et al. Protein intake, IGF-1 and osteoporosis. Osteoporosis Int. 1997;7 Suppl 3:S36-42.
8. Keen R. Osteoporosis: strategies for prevention and treatment. Best Pract Res Clin Rheumatol. 2007;21:109-122.
9. Chapuy MC, et al. Vitamin D3 and calcium to prevent hip fractures in the elderly women. N Engl J Med. 1992;327(23):1637-42.
10. Sunyecz JA, et al. The role of calcium in osteoporosis drug therapy. J Womens Health (Larchmt). 2005;14(2):180-92.
11. Welten DC, et al. A meta-analysis of the effect of calcium intake on bone mass in young and middle aged females and males. J Nutr. 1995;125(11):2802-13.
12. 平成18年 国民健康・栄養調査結果の概要.http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/04/h0430-2a.html. Accessed February 21, 2009.
13. Binkley NC, et al. Vitamin K nutrition and osteoporosis. J Nutr. 1995;25:1812-1821.
14. Wolff I, et al. The effect of exercise training programs on bone mass: a meta-analysis of published controlled trials in pre- and postmenopausal women. Osteoporosis Int. 1999;9(1):1-12.
15. Bonaiuti D, et al. Exercise for preventing and treating osteoporosis in postmenopausal women. Cochrane Database Syst Rev. 2002;(3):CD000333.
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