書籍紹介(8)

「医療系研究論文の読み方・まとめ方」-論文のPECOから正しい統計的判断まで- 

 対馬栄輝 著(東京書籍)

中川直人, Pharm.D., Ph.D.

  Pharm.D.クラブのコラムで、日本の薬剤師は、臨床論文を読む習慣を身に付けることが必要であることを私は主張してきました(109回会員コラム「日本の薬剤師の職能の向上には臨床論文を読む習慣を身につけることが不可欠」http://pharmd-club.cocolog-nifty.com/blog/2015/05/index.html )。それではどのように身に付けていくかというアプローチについて、まずは医療英単語の修得をお勧めしました(書籍紹介(7)http://ce.cocolog-nifty.com/blog/2014/07/post-fd55.html )。本院薬剤部ではジャーナルクラブを立ち上げて、臨床論文の読み方を身に付ける場を設けていますが、参加者から、統計解析の理解が足りないという感想をよく聞きます。そこで、臨床論文を読み始めた人をターゲットにした書籍を探したところ、本書がわかりやすく解説しているので、今回ご紹介します。

 本書は、統計解析の理論書とは趣を異にしていますので、初心者にはとりつきやすいのではないかと思います。理論書でよく見かける数式は一切でてきません。臨床論文を読む側としては、統計手法がデータに対して適切に適応されているかを判断できればよいのですから、その統計手法の選び方がわかりやすく解説されています。

 また、臨床論文の統計解析の部分から必ず確認するポイントとして、「検出力(power)」があります。一般的に80%以上であれば、評価に耐えうることになりますが、「検出力(power)」を理解するためには第1種の誤り(type 1 error)および第2種の誤り(type 2 error)の理解が必要です。本書では、この点について、表を用いて簡便に解説しています。

 有意水準には一般的に5%(p=0.05)が用いられますが、有意水準が5%を超える場合(p0.05)、「差がない」という表現ではなく、「有意な差があるとは言えない」と表現することも本書では述べられています。統計的検定では、「差がない(=0)」、「相関がない(=0)」、「回帰直線の傾きは0である」などの「ない(=0)」という意味を持つ帰無仮説を、完全にうけいれることができない仕組みになっていると説明されています。

 論文をまとめる視点からも本書は活用度が高いと思います。例えば、あるドライ研究を進める場合、第2種の誤りを小さくする(つまり検出力を80%以上にする)には、サンプルサイズをどれくらいにするかをあらかじめ決めておく必要があります。本書では、用いる統計手法に応じて何サンプル必要かを表に示してくれています。これを目安にサンプルを集めれば、統計処理をした結果、有意差がつかなくても第2種の誤りを一般的に受け入れられる20%として検定しているので、「有意差があるとは言えない」結果から、一つの結論を導くことができます。

 臨床論文を読む際の参考書の一冊としてご利用いただけると幸いです。

 

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練習問題回答

 問題1 この文献は、次のどれに分類されるでしょうか?

 A. Class I

問題2 現在、この臨床治験だけがocrelizumabの多発性硬化症(MS)に対する治験のデータと仮定すると、現在のocrelizumabの多発性硬化症(MS)に対するエビデンスは以下のどれになるでしょうか?

B. Level B

 

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医学論文を読むにあたって

University of New Mexico College of Pharmacy 武田三樹子

アメリカの薬学部の授業内容でJournal Clubと呼ばれる論文読解が行われています。私が日本で学生だった頃を思い返すと、論文読解は、先生方や先輩方に論文を読むことを教わったり、自己流で論文を読み、それをセミナーなどで発表していたように思います。しかし、セミナーでは、読み損ねた場所を指摘されたり、しっかりと解析ができていないことも多々ありました。私がUniversity of Kansasにいた頃、神経学の助教の先生が紹介してくれた論文解析のまとめの方法と、修士課程で学んでいたときのCONSORTという論文がとても有用だったので、今回はそれらの内容を紹介し、薬学部の授業でどう利用しているかに関しても紹介したいと思います。 

CONSORT review1

CONSORTConsolidated Standards of Reporting Trialsの頭文字を取ったもので、無作為化比較臨床試験に関する論文をどう読みこなすか、そのポイントがまとめてあります。概要としては、無作為化比較臨床試験の論文を読む際には、25個のチェック項目を読み落とさないように、そして、その上で文献の内容が理解できていることがゴールとなります。

文献の分類と治療薬のエビデンスレベル

文献解析を行った後は、さらにその文献がどの分類に入るのか、また、その治療薬のエビデンスはどの程度のものなのかを調べると、興味深いものになります。ある疾患とその治療薬に関して、有効性を多角的に分析し、結果をまとめる際に使用するのが、アメリカ神経学学会が作成したClinical Practice Guideline Process Manual2です。これは、神経学関連の臨床治験の文献を集めた後、エビデンスを評価し、ガイドラインを作成するためのマニュアルとして作成されました。このマニュアルの内容を見ると、神経学に限らず、様々な疾患に関する治療薬のエビデンスをまとめることにも応用ができます。例えば、次のような課題が与えられたとします。“Daclizumabが多発性硬化症に有効であるか?” 文献の分類、エビデンスの解析に関して、順番に解説していきます。

文献の分類

文献はClass IからIVまでに分類されます。この分類は、主に、治験のデザイン、アウトカムの明確さ、治験脱落率などに基づいて分類され、Class Iが最もランクが高く、Class IVが最もランクが低くなっています。自分が読んだ文献に、以下のことが記載されているか、吟味を行います(以下の情報は直訳ではなく、わかりやすく情報を加えています)。

Class I 

· 無作為化比較臨床試験で、治験は患者を用いて行われたものである

· アウトカムは客観的に評価されている

· 治験開始前に患者の基本情報(例:年齢、性別、検査結果の概要など)が記載されており、治療グループ間で、その結果に有意差がない(もし有意差があった場合は適切に調整が行われている)

· 以上の条件を満たした上で、さらに以下の条件も満たしている

a. 治療グループとプラセボのグループに割り当てられた人数が明記されている

b. 治験のprimary outcomeが明確に記載されている

c. 治験患者の選択基準(inclusion/exclusion criteria)が明確に記載されている

d. 治験中の脱落患者数が適切であり(治験終了時に少なくとも80%以上の患者が治験を完了していることが望ましい)。交差試験の場合では、潜在的なバイアス(偏向、偏見)を避けるために、脱落率はなるべく低いことが望ましい。

e. Noninferiority trials (例:ある薬Aが疾患Xに対して従来使用されていた薬で、新薬Bを用いて疾患Xを治療した際に、新薬Bの有効性は薬Aに劣らないことを証明するための論文)、または equivalence trials(例:ある先発医薬品と後発医薬品の有用性を比べる実験などで、後発医薬品は先発医薬品と同等に有効性があると証明するための論文)であれば、以下の4つのことが満たされている

1. 筆者は、何をもって同等/非劣としているのか、その定義を明確されている

2. 治験に(比較)使用されたスタンダードな治療法は、有効性を確かめるために行われたこれまでの治験に使用されたものと類似している

3. 治験患者の選択基準(inclusion/exclusion criteria)とスタンダードの治療を受けた患者のアウトカムは、これまでに行われた同様な治験で用いられたものと同等である 

4. 治験の結果の解釈は、治験中の脱落患者数や交差試験を考慮した治験計画書どおりの解析に基づいたものである

Class II

 · コホート研究で、上記Class I の分類に記載されているa-eを満たしているか、無作為化比較臨床試験で、a-eのうち1-2個の条件を欠いている

      · 治験開始前の患者の基本情報(例:年齢、性別、検査結果の概要など)が記載されており、治療グループ間で、その結果に有意差がない(もし有意差があった場合は適切に調整が行われている)

      · アウトカムは客観的に評価されている

Class III 

· 対照試験である(対象群は、過去にの臨床治験で使用された対象群を用いている場合や治療群の患者自身が対象群となっている場合も含む)

· 治療群における、治療に影響を及ぼすような主な交絡要因に関して説明がなされている

· アウトカムのアセスメントは、客観的であるか、もしくは、治療チームのメンバー以外が行っている

Class IV

· 治験に患者を使用していない(例:先発医薬品と後発医薬品の体内動態試験など)

· 異なる治療グループを用いていない(例:単一で一定量のの治療薬のみを使用している、プラセボを用いていない、など)

· 不明確、不適切な治療法の使用やアウトカムの測定

· 治療効果を測定していなかったり、統計処理が不正確であったり、統計処理行われていない 

この分類の作業に慣れるには、経験と時間を要します。 

Daclizumabが多発性硬化症(MS)に有効であるか?”という話題に戻ります。Daclizumabと多発性硬化症(multiple sclerosis)という言葉をPubMedで検索し、治験をCHOICE studySELECT studyを見つけました。治験の概要は以下の通りでした。 

続きはこちらから 「Continue.pdf」をダウンロード

 

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サイト紹介:Pharmacist Letter

 伊野 陽子,Pharm.D.

Pharmacist letter www.pharmacistsletter.com/

  アメリカ留学当時、プリセプターである薬剤師にどのようにして薬物治療についての知識を更新していくのかと聞いたときに挙げられた情報源の一つとして、Pharmacist letterというサービスがあった。私が実習を行った病院のDIでもこのPharmacist letterを購読しており、薬学6年生の最終セメスターには全学生にもPharmacist letterが配布されていた。今回はこの、アメリカで発行されている、薬物治療に関する新しい話題、エビデンス、薬剤師実務の傾向についての情報を提供するPharmacist letterというサービスを紹介したい。

 基本的には月に1度、10個ほどのトピックが紹介される。20146月のトピックをいくつか挙げると、

・抗凝固療法について;膝置換術後の血栓予防により多くの経口抗凝固療法が使用可能に

・糖尿病について;いつどのようにインスリンを使うのか

・医療安全;ピルボックスの適切な使用方法

・循環器:慢性腎機能低下患者にACEIs/ARBsを安全に使用するには

といったものがある。

 トピックとして、大まかな傾向を読んだ後、もう少し詳細を知りたければ、detailed documentに進むこともできる。また、トピックを読んだ後のクイズに答えることにより、CE(生涯教育)の単位を得ることが出来る。

   Pharmacist letterのメリットとして、トピックに関連したチャート、アルゴリズムなどがリンクとして使用できることがある。例えば抗凝固療法のトピックからは抗凝固薬について比較したチャートを、循環器のトピックからは腎機能低下患者にACEIs/ARBsを開始した際のSCr,Kモニタリングについてのアルゴリズムが参照できる。

その他の情報提供サービスとして患者向け情報提供用紙がある。ここでの情報提供は、薬剤についての情報ではなく、例えば「薬の飲み忘れを防ぐためのヒント」「日焼け対策について」「子供に市販の風邪薬を使用するときの注意点」など、適切な薬物治療を行うための話題・対策についてである。

 特定の領域を深く学ぶというものではないが、幅広く薬剤についての知識を更新し、日常の業務を見直していくのに有用なサイトである。

注意すべきは、アメリカの薬剤師向けのサービスであるため、根拠となっている治療ガイドライン、適応、商品などが日本にそのまま適応できない点である。しかし、海外で承認された薬剤についての情報や薬物治療についてのトレンドを知り、日常の業務を見直すきっかけや改善のヒントとして利用する価値はあると思われる。

購読費用:年間129ドル

 

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書籍紹介(7)

 中川 直人 Pharm.D., Ph.D.

1.Medical Terminology Simplified: A Programmed Learning Approach By Body Systems (Third edition)

著者:Barbara A. Gylys, Regina M. Masters

出版社:F.A.Davis Company

2. 『トシ、1週間であなたの医療英単語を100倍にしなさい。できなければ解雇よ。』

著者:田淵 アントニオ

出版社:(株)SCICUS(サイカス)

 当院の薬剤部では、昨年度から職員教育の一環として、ジャーナルクラブ推進プログラムに取り組んでいます。そのプログラムでは、約半年かけて職員を臨床試験の論文を批判的に読むことができるように教育しています。プログラム前半は医療英単語の習得、後半は臨床試験の論文を具体的に読むことから成り立っています。前半に医療英単語を習得することに重点を置いている理由は、私の留学経験に基づいています。Pharm.D.プログラム開始前に大学側から、ある1冊の本を指定され、オンラインのテストを受けなさいという課題がありました。その本は、医療における専門用語の英単語の成り立ちを理解するために書かれた本でした。様々な接頭語・接尾語の意味を知るいい機会になり、その後のPharm.D.プログラムの授業でも役に立ったことを覚えています。それが1Medical Terminology Simplified: A Programmed Learning Approach By Body Systems (Third edition)です。体の構造から始まり、呼吸器系、消化器系、泌尿器系などの系統別にチャプターが構成されています。カラーの挿絵も理解の助けになります。この経験を基に、ジャーナルクラブ推進プログラムに医療英単語の習得を組み込みました。日本語で書かれた有用な医療英単語の本を探したところ、2『トシ、1週間であなたの医療英単語を100倍にしなさい。できなければ解雇よ。』にたどり着きました。物語として書かれていて読みやすく、かつ接頭語・接尾語の説明も丁寧に書いてあるので、本プログラムの教科書に適切であると判断しました。

  昨年度の1年間通して得た実感として分かったことは、臨床試験の論文を読むには、まず医療英単語の習得が優先であるということです。医療に関する専門用語の英単語の知識は、経験的に身についているものもあるとは思いますが、系統立てて学ぶ機会は日本では少ないと思いますので、いきなり臨床試験の論文を読みましょうといっても、辞書片手に専門用語の意味を調べる時間が長くなり、「読む」ことに集中できないと思います。プログラム参加者の感想では、「英語アレルギーがなくなった」、「カルテの意味がわかりやすくなった」、「辞書を引く回数が減った」という意見などが聞かれ、医療英単語習得の有用性を実感しています。

 英語の論文を読むことにすこし抵抗のある方は、医療英単語の習得から始めることをお勧めいたします。

 

 

 

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書籍紹介(6)

                   前田 幹広, Pharm.D.

タイトル:Hospitalist (ホスピタリスト)

著者:(編集)平岡 栄治, 八重樫 牧人, 清田 雅智, 石山 貴章, 筒泉 貴彦, 石丸 直人, 徳田 安春, 藤谷 茂樹

出版社:メディカルサイエンスインターナショナル

サイズ:28 x 21

 前回は集中治療関連の雑誌としてIntensivistを紹介したが、今回はIntensivistと同様にエビデンスに基づいた診断と治療について書かれている雑誌である。ホスピタリストとは「病院医療の中心にあって、患者のベストなアウトカムへ向け、患者・家族・コメディカルをリードし、専門科をコンダクトしていく病棟ジェネラリスト」であり、米国でもその概念が広がっている。実際私が過去に働いた病院でもホスピタリストという言葉は使用しなかったとはいえ、内科治療で入院している患者の多くは内科チームが診ており、病態によっては専門医がコンサルトするというシステムを採用していた。本書はホスピタリストを志す(後期)研修医を中心に、総合内科医・各科専門医や医学生を対象としている。

 薬剤師の間では多くの認定や専門薬剤師制度が出来ているが、本来薬剤師の専門は「薬」であり、まずは「薬」のジェネラリストとしての役割が求められる。本書はすでにジェネラリストとしての素養があり専門薬剤師を目指している薬剤師ではなく、ジェネラリストを目指す若い臨床薬剤師に役立つと確信する。

 20139月に刊行された1号ではホスピタリスト宣言として、ホスピタリストの概念や海外における現状、そしてホスピタリストに必要なスキル・能力など薬剤師にも通じる内容が織り込まれている。2号では感染症を特集として、初学者でも分かりやすいように細心のエビデンスを含めながら書かれている。感染症の専門を目指す薬剤師にとっては少々物足りないかもしれないが、薬剤師にとって抗生物質は勉強したが、実際の感染症でどのようにその知識を適応すればよいか困惑している薬剤師に本書はおすすめである。

 今後は感染症に次いで腎疾患、膠原病と内科疾患として重要な特集が予定されており、薬物治療の基礎を学んだうえで本書を一読することをお勧めする。日本でホスピタリストというシステムが根付くかは分からないが、臨床薬剤師として必要な薬物治療の知識の一部を獲得するためのとして本書が一助になることは間違いない。

 

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プロカルシトニンテストについて

 廣島 理沙, Pharm.D.

 学習目的

 1プロカルシトニンの有用性についての理解を深める.

 2近年発表されたプロカルシトニンに関しての文献の結果を理解する.

 3プロカルシトニンの臨床的有用性について考える.

今回は, 細菌感染症や敗血症の診断や治療で注目されているバイオマーカー, プロカルシトニンについて取り上げる.

プロカルシトニンとは1-2)

プロカルシトニン(PCT)は116個のアミノ酸から成る分子量 13kDaのペプチドであり,通常はカルシトニンの前駆物質として甲状腺C 細胞で合成される. しかし,重症細菌感染症では, その菌体や毒素などの作用により, TNF-αなどの炎症性サイトカインが産生され, その刺激を受けて肺, 肝臓, 腎臓, 脂肪細胞, 筋肉など多臓器からPCTが血中に分泌される. 現在, PCTは細菌, 寄生虫, 真菌感染症に特異な血清マーカーとして, また敗血症重症度評価の指標として, その有用性に期待がもたれている. 日本では2006年から, 敗血症に対してのPCT測定が保険収載された.

特徴:

· 炎症のマーカーであるCRPにくらべて反応が速やか(3時間)である. 半減期は24 30時間.

· PCTはウイルス感染症においてはほとんど上昇しない. ウイルス感染時にはインターフェロンγ が増加しPCT産生の抑制がおこると考えられている.

· NSAIDS, ステロイド, 抗癌剤などを使用していても, PCT濃度に影響はないと報告されている.

偽陽性と偽陰性:

上記でPCTは細菌感染症で特異的に上昇すると述べたが, 偽陽性, 偽陰性の問題がないわけではない. PCT細菌感染症以外にも全身性炎症や外傷などで上昇するという報告がある(表1.

1. PCTが上昇する原因3)

 

A. 神経内分泌腫瘍

 
 

  甲状腺髄様癌

 

  肺小細胞癌

 

  カルチノイド症候群

 
 

B. 非感染症全身性炎症

 
 

  気道熱傷

 

  誤嚥

 

  膵炎

 

  熱中症

 

  腸間膜梗塞

 
 

C. 重症感染症

 
 

  細菌性

 

  ウィルス性

 

  寄生虫

 
 

D. 敗血症

 
 

E. 外傷

 
 

  機械的損傷

 

  熱傷

 

  外科手術

 

 

 

近年のプロカルシトニン研究結果4-9)

近年PCTを使って抗菌薬治療の開始・中止を決定する研究がたくさん発表されている. 201312月に発表されたレビュー論文に紹介されている試験の中から代表的な4件について概説する.

Nobre et al. 2008 

 

研究デザイン

 
 

単施設, 前向き, オープンラベル, ランダム化比較

 
 

被験者

 
 

PCT群   (n=31) と対照群 (n=40)

 

重症敗血症,敗血症性ショック

 
 

介入

 
 

PCTの初期値が>1ng/mL: PCT<0.25ng/mLまで低下または90%以上低下すれば,抗菌薬投与を5日目以降に中止する.

 

PCTの初期値が<1ng/mL: PCT<0.1ng/mLまで低下すれば,抗菌薬投与を3日以降に中止する.

 
 

主要調査項目

 
 

抗菌薬中止までの日数

 
 

結果

 
 

抗菌薬中止までの日数:対照群9.5日に対して, PCT群は6日(p<0.15)-有意な変化なし

 

Per   Protocol解析では(n=68)対照群10日に対して, PCT群は日(p=0.003

 
 

まとめ

 
 

抗菌薬投与中止までの日数に有意な差は見られなかった.

 

 Hochreiter et al. 2009  

 

研究デザイン

 
 

単施設, 前向き, オープンラベル, ランダム化比較

 
 

被験者

 
 

PCT群   (n=57)と対照群 (n=53)

 

細菌感染症が疑われるSIRS患者

 
 

介入

 
 

PCT<1ng/mL: 抗生剤投与中止

 

PCT>1ng/mLの場合でPCTが初期値から25-35%減少: 抗菌薬投与中止

 
 

主要調査項目

 
 

抗菌薬中止までの日数

 
 

結果

 
 

抗菌薬中止までの日数:対照群7.9日に対して,PCT群は5.9日(p<0.001)

 
 

まとめ

 
 

PCT群のほうが有意に抗菌薬投与期間を2日短縮させた.

 

 Bouadma et al. 2010PRORATA Trial

 

研究デザイン

 
 

多施設, 前向き, オープンラベル, ランダム化比較

 
 

被験者

 
 

PCT群   (n=311) と対照群 (n=319)

 

ICU滞在期間3日超と思われる細菌感染疑いのある患者, 18歳以上

 
 

介入

 
 

抗菌薬開始・中止をプロトコルにより決定する.

 

Medical   ICU

 

0.25 μg/L:抗菌薬不使用または中止強く推奨

 

0.25 and 0.5 μg/L: 抗菌薬不使用推奨

 

0.5and 5μg/L: 抗菌薬使用推奨

 

5 μg/L: 抗菌薬使用強く推奨

 

Surgical   ICU

 

4 μg/L: 抗菌薬不使用または中止強く推奨

 

4 and 9 μg/L: 抗菌薬使用推奨

 

9 μg/L: 抗菌薬使用強く推奨

 
 

主要調査項目

 
 

28, 60日死亡率と28日目までの抗生剤無使用日数

 
 

結果

 
 

28, 60日死亡率: 有意な変化なし

 

抗菌薬無使用日数:対群14.3日に対して, PCT群は11.6日(絶対差   2.7, 95% CI 1.4- 4.1,   p<0.0001)

 
 

まとめ 

 
 

PCT群の方が死亡率に影響なく, 有意に抗菌薬投与期間を2.7日短縮させた.

 

 Annane et al. 2013

 

研究デザイン

 
 

多施設, 前向き, オープンラベル, ランダム化比較

 
 

被験者

 
 

PCT群   (n=26)と対照群 (n=27)

 

血液培養陰性のSIRS患者, 18歳以上

 
 

介入

 
 

抗菌薬開始・中止をプロトコルにより決定する.

 

抗菌薬開始時

 

0.25 μg/L: 抗菌薬不使用強く推奨

 

0.25 and 0.5 μg/L: 抗菌薬不使用推奨

 

0.5and 1μg/L: 抗菌薬開始推奨

 

1 μg/L: 抗菌薬開始強く推奨

 

再検時

 

0.25 μg/L: 抗菌薬中止強く推奨

 

0.25 and 0.5 μg/L, またはピーク時よりも80%以上低下: 抗菌薬中止推奨

 

0.5 μg/Lかつピーク時よりも80%未満低下: 抗菌薬継続推奨

 

0.5 μg/Lかつピーク時よりも上昇: 抗菌薬変更強く推奨

 
 

主要調査項目

 
 

5日後の抗菌薬の使用率

 
 

結果

 
 

抗菌薬の使用率:対照群81に対して, PCT群は67%95% CI 0.60-1.14,   p=0.24)

 
 

まとめ

 
 

5日後抗菌薬の使用率に有意な差は見られなかった.

 

 研究によって対象患者や介入に大きな違いがあるため一概に評価をするのは難しいが現時点ではPCTプロトコルを臨床的に普及できるほどのエビデンスはまだそろっていない. ただSurviving Sepsis Campaign Guideline 2012(敗血症診療ガイドライン)では,「敗血症と診断したが,その後感染の根拠が認められない患者においては,PCTや同様のバイオマーカーが低値であることを経験的治療の中止するために使用してもよい(Grade 2C)」と記されているなど,敗血症の診断および細菌感染症の診断に関する新しいバイオマーカーとしての有用性が認められつつあるのも確かである. 当たり前ではあるが,PCT偽陽性と偽陰性を考えつつ患者の病態や他の検査所見とあわせて総合的に感染症の有無を判断することが重要である.

練習問題

1PCT細菌感染症以外にも膵炎や外傷などで上昇する.

a.  

b. 

22010年に発表されたPRORATA Trialの結果によれば, PCTを使ったプロトコルを導入することにより抗菌剤投与期間を短縮することができる.

a.  

b. 

3PCTのバイオマーカーとしての役割はまだ確立しておらず, Surviving Sepsis Campaign Guideline 2012も使用を否定している.

a.  

b. 

正解:a, a, b

参考文献

1. Linscheid P, Seboek D, Nylen ES et al. In vitro and in vivo calcitonin I gene expression in parenchymal cells: a novel product of human adipose tissue. Endocrinology. 2003; 144: 5578-84

2. Becker EL, Nylén ES, White JC et al. Procalcitonin and the calcitonin gene family of peptides in inflammation, infection, and sepsis : a journey from calcitonin back to its precursors. J Clin Endocrinol Metab. 2004; 89:1512-1525.

3. Becker KL, Snider R, Nylen ES. Procalcitonin assay in systemic inflammation, infection, and

sepsis: Clinical utility and limitations. Crit Care Med. 2008; 36 (3): 941-952.

4. Prkno A, Wacker C, Brunkhorst FM et al. Procalcitonin-guided therapy in intensive care unit patients with severe sepsis and septic shock  a systematic review and meta-analysis. Critical Care. 2013;17:R291

5. Nobre V, Harbarth S, Graf, JD et al. Use of procalcitonin to shorten antibiotic treatment duration in septic patients. Am J Respir Crit Care Med 2008; 117:498-505.

6. Hochreiter M, Koehler T, Schweiger AM, Keck FS, Bein B, von Spiegel T, Schroeder S:

Procalcitonin to guide duration of antibiotic therapy in intensive care patients: a

randomized prospective controlled trial. Crit Care 2009, 13:R83.

7. Bouadma L, Luyt C-E, Tubach F, Cracco C, Alvarez A, Schwebel C, Schortgen F,

Lasocki S, Veber B, Dehoux M, et al: Use of procalcitonin to reduce patients’ exposure to antibiotics in intensive care units (PRORATA trial): a multicentre randomised

controlled trial. Lancet 2010, 375:463–474.

8. Annane D, Maxime V, Faller JP et al. Procalcitonin levels to guide antibiotic therapy in adults with non-microbiologically proven apparent severe sepsis: a randomised controlled trial. BMJ Open. 2013; 3:e002186.

9. Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, et al. Surviving Sepsis Campaign Guidelines Committee including the Pediatric Subgroup. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med 2013; 41: 580-637

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書籍紹介(5)

                                          上田 彩

夏から秋にかけて薬剤師関連の学会シーズンであり、科研費の申請などの時期となるこの頃、薬剤師の研究の教科書となる書籍を一冊紹介したい。

 

 Conducting your pharmacy practice research project
A step-by-step approach

Second edition
Felicity J Smith
Pharmaceutical Press 2010

www.pharmpress.com/product/9780853698692/conducting-your-pharmacy-practice-research-project


<著者と第2版について

 著者のスミス教授は英国人で、病院や地域薬局での薬剤師の経験を経て、博士研究で地域薬局薬剤師の貢献について評価した。学位取得後、ロンドン大学(UCL大学)の教員としてのキャリアを重ね、現在はPractice & Policy Departmentの教授である。私もロンドン大学修士課程でResearch methodsの講義を受けている。
 
2版は、初版の2005年度から大きく改変され、研究のスーパーバイザー(指導者)に役立つ生徒に対するサポートの在り方について指南する4章が追加された。研究への科学的なアプローチについても詳細な5章が追記された。

本書は、Pharmacy Practice Research (PPR)薬剤師の実務に関わる研究の初心者を対象としている。研究計画と文献レビューから、最後の論文の書き方と発表までの3つのプロセスに分けて、PPRならではの例や著者の研究指導経験を踏まえたガイドブックである。

Part 1 Preparation, planning and management
 40ページ)
 
研究計画の準備から研究計画書の書き方、研究を計画通りに行うためのタイムマネジメントについての解説

ここからは、指導者だけでなく、他の協力者と研究を進めるタイムマネジメントについて以下に抜粋する。

多くの研究者は、計画について楽感的で、現実的になれないことが多い。例えば、倫理審査委員会での許可が降りる期間や、研究対象者を募集したり、アンケートの回収期間、相手の都合に合わせてインタビューを行うために使われる時間なども考慮しなければならない。回答が得られなかった人の追跡や、録音したデータを文章におこす時間、データの正確性の確認、質的データのコード化や解析も時間がかかる。このような、研究のmilestonesごとに計画を立てるためにgantt chartが用いられる。

「ganntt_chart.pdf」をダウンロード

すべてのmilestonesは、指導者と合意し、現実的な計画を立てる。このGantt chartを利用して、ひとつのmilestoneを達成し、次の計画へ進行する時に指導者とミーティングをすべきである。
 
研究には様々な協力者がおり、計画において、協力者への配慮が必要である。多くの場合、研究の趣旨についての理解や同意があることで、無償で協力を得られるが、実際には謝礼金を時間に対して支払うこともあるであろう。研究者として、時間を守り、適切な対応と計画やルールに則った研究を行こない、協力者には複雑なことを依頼しない。業務の中でスムーズに行える配慮をする。研究に関するミーティングの記録を残し、他者からの意見で研究にどのような影響があったかを明確にする。これからの研究のために、協力者との連絡のやりとりなども記録し、改善方法を模索する。また研究が出版された時には、協力者へも結果をお礼の手紙を添えて転送するべきである。また他施設やコラボレーションが必要な共同研究においても、個々の任務や責任の在り方を理解し、研究を進行させることが重要である。データ収集を依頼する時も、同一のシステムを使ってそれに従うように計画することが重要ある。どんな研究においても、問題点は早期に発見し、解決することが後の研究の質に影響を及ぼす。すべての協力者の立場に立って、慎重に現実的な計画を立てることである。

Part 2 Scientific enquiry and research methodology. (154ページ)
 
ここでは、研究の視点と、リサーチクエスチョンによってどのようなResearch methodsが必要になるかを解説している。また本書で最も有用な内容である質的研究についても解説がある。筆者は、audit(使用実態調査)は研究なのかという点について次のように解説している。

 auditは、一般的に業務やサービスの評価方法である。auditの目的は、組織におけるプロセスやアウトカムを改善することであり、医療現場においては、なくてはならない質保証の活動である。研究における手法として議論されるまでもなく、有効なツールとしてデザインされた。概念的に、auditresearchは異なる。auditの結果は、通常実践的で、既存の仮説を超えることなない。個々の施設に応用されるが、グローバルな応用性はない。auditは、既存の業務や活動に対してアプローチされ、新規の仮説に対して行われることはない。しかし、auditの結果が研究のバックグラウンドや計画のために用いられることもあるため、auditresearchを明確に切り離すことができない場合もあるであろう。

 量的研究と質的研究について

 量的研究とは、国勢調査に代表されるような大規模な記述研究や、実験的な介入研究で変数との関連性や異なるグループでの違いについて定量化するものである。質的研究は、記述研究や探索的研究であることが多い。仮説の構築や形成であることもある。包括的なアプローチで介入を評価するときには、質的評価が応用され、量的評価と併用されることも多い。多くの研究では、データ収集を複数のアプローチを使用することがあり、トライアンギュレーションtriangulationと呼ばれる。もともとは、測量の用語で三角測量に意味で、複数の手法でデータ収集を行うことでより正確な判断ができることから由来している。PPRにおいて、もっとも応用されるトライアンギュレーションは、データのバリデーションである。例えば、薬剤師の業務に対しての評価をアンケートと観察研究を行う。患者の医薬品の使用状況を電子カルテからと薬剤部の調剤履歴のデータベースから入手することで評価をより正確に行うなどである。研究の段階において、質的評価と量的評価の両方を採用することについては、賛否両論あるが、ヘルスサービスの研究においては珍しいことではない。研究は、探索的に質的評価から開始され、重要な仮説を導き、その後、仮説について大規模な量的な評価を行うこともできるであろう。

 Part 3 Writing up and dissemination of the findings 20ページ)

 論文の書き方と発表については、最終論文はどのようにまとめるべきかや、発表については口頭とポスター発表についての解説がある。

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てんかん治療と骨の健康

 山田三樹子PharmD, University of New Mexico College of Pharmacy

   てんかん患者の薬物療法におけるモニターすべき事項については、以前にも説明してきたが、今回はてんかん患者と骨の健康について焦点をあてる。 

 てんかん患者は、健常人と比べて骨の健康状態が著しく低下しており、骨折のリスクが2倍から6倍高いという報告がある。1 てんかん患者が骨折をする原因は、てんかん発作に伴って、転倒などを起こした結果骨折するケースもあれば、抗てんかん薬の副作用に伴うものも多い。2,3  現に、これまでの研究では、すべての抗てんかん薬が骨のbiomarkerを変化させるリスクがあるとも言われている。1,2,4-31

 では、骨折が起こると何が問題なのか?それは、患者の生活の質(QOL)を著しく損ねてしまうからである。32 てんかん患者の多くは、予期できない発作のために、仕事に就くことが容易でなかったり、また、就職しても、危険な仕事(例:高いところに登る、フォークリフトのような機材を使用する作業、車の運転など)は避けねばならないことが多々ある。そのようななかで、骨折が起こってしまうと、仕事においての制限も増え、さらに日常生活でも不便を強いられる。さらには、骨折の多くが骨粗しょう症から起こるものであるが、その治療費が高額である。33 アメリカでは、骨粗しょう症から起こる骨折の治療費が年間$19 billion と算出されているが、これが2025年までには$25.3 billion まで増えると予想されている。33 従って、てんかん患者における骨折リスクの減少と骨の健康を守ることは、患者のQOLを高めるためにも、医療費の削減のためにも重要な課題なのである。

 骨の健康を保つためには、適度なカルシウムの摂取が必要であり、そのカルシウムの吸収を促進するのがビタミンDである。ビタミンDに関しては、ビタミンDが体内で活性型ビタミンDに変換される必要があり、それには日光を浴びる時間も重要な因子となっている。さらに、エストロゲンやテストステロンは、骨の質を保つため、またリモデリングには必要不可欠なホルモンである。34,35 さらに、適度な運動も、骨の成長を促す上で重要である。以上を考慮すると、てんかん患者におけるこれらのホルモンの不足の原因と骨の健康に関して、

 1.抗てんかん薬がもたらす薬物代謝酵素の変化

 2.てんかん発作が誘発する、体内ホルモン量の変化

 3.日光を浴びている時間または運動時間の不足

 という3つの要素を考えねばならない。

  抗てんかん薬の中には、薬物代謝酵素を誘導するものがあり(例:カルバマゼピンやフェニトインなど)、それらは、ステロイド骨格を持つ薬物や、内因性のホルモンの代謝を促進させてしまう。36 代謝が促進される内因性のホルモンとして、活性型ビタミンDあるいは性ホルモンが挙げられるが、これらは、代謝が促進されてしまうことで、実際に体内で利用されるビタミンDや性ホルモンの量は少なくなってしまう。36 また、てんかん発作が起こることで、脳内の視床下部下垂体内分泌腺のフィードバックシステムに異常をきたしてしまうことがあり、ホルモン分泌がうまくいかなる場合がある。37さらには、てんかん患者は、てんかんと共存症状(例:脳性麻痺、精神発達遅滞など)の影響によって一般人と比べて日光への露出時間が少なかったり、骨の健康を保つための必要な運動量が十分に確保できないことが原因で、結果的に骨密度も低いというデータがある。26 

  以上の理由から、薬剤師として、抗てんかん薬が処方されている患者の副作用モニターの項目のひとつに、骨の健康状態の把握を加えることは、患者のQOLを高めるために重要である。抗てんかん薬は、てんかんのみならず、精神疾患、慢性疼痛にも頻繁に使用されているが、私の経験上、それぞれの専門医でも、日常の診療で骨の健康状態まで気を配るのは難しいようである。

 骨の健康状態は簡便な検査で把握することが可能である。一般のALPの測定でも、肝機能の検査値が通常にもかかわらずALPが高ければ、骨の代謝異常を考慮している。DEXA scanは被爆量も少なく、比較的簡便に骨密度の測定を行うことができる。また、骨のalkaline phosphatase (ALP)の測定も、骨の健康状態を診る上で簡便な検査のひとつである。現在私は小児のてんかんクリニックで週8時間働いているが、過去1年間血液検査でALPの測定が行われていない場合は、医師にALPの測定を助言している。もしALPが高値であった場合は、てんかん専門医は治療薬の変更を考慮したり、また、一般小児科医にその旨を連絡し、適切な検査や治療を行うよう、連携をとっている。 

練習問題

 1. 以下の記述のうち、正しいものはどれか?

 A. てんかん患者は、健常人と違って、ビタミンDの吸収が異なっている

 B. ビタミンDは、D2でもD3でもその活性は変わらない

 C. 抗てんかん薬が投与されている患者は、骨の健康状態をモニターすべきである

 D. 薬物代謝酵素によって、カルシウムの代謝が促進されてしまう

 2. 以下の記述のうち、正しいものはどれか?

 A. 抗てんかん薬はてんかん患者の治療のみに使用される

 B. 定期的なDEXA scanは、骨の健康状態を把握する上で有効な検査である

 C. 薬物代謝酵素に影響を及ぼさない抗てんかん薬を投与されている患者では、骨の健康をモニターする必要はない

 D. 適度な運動は、骨の健康維持には重要ではない

 

答 1C 2B 

References

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経口抗腫瘍薬を服用中の患者に対する薬剤師の役割 ~腎がんを例に~

  大友千絵子, Pharm.D., BCOP

はじめに

 薬剤師と一口に言ってもその業務内容は様々だ。病院勤務の薬剤師、町の調剤薬局の薬剤師、大学病院の門前薬局の薬剤師。それぞれの業務も多岐に渡る。しかし、共通していることは患者の安全を第一に考えるということだ。抗がん剤というと、吐き気、脱毛、好中球減少などの副作用が真っ先に頭に浮かんでくるであろう。しかしこれらの副作用以外にも、患者が経験する副作用は多岐に渡る。近年抗腫瘍薬(含・分子標的抗腫瘍薬) の開発が進み、新薬が経口剤として次々と市場に出てきている。それと同時に、がん患者がかかりつけ調剤薬局にその処方箋を持ってくるということがより身近になっている。今回は腎がんを例に、どのように服薬指導を行えばいいのか、薬剤師としてどのような介入が出来るかをとりあげる。

 

学習目的

1. 腎がんの概要、危険因子を理解する

2. 腎細胞がんの第一選択薬の一つ、スニチニブの服薬指導のポイントを理解する

3. 腎細胞がんの第一選択薬の一つ、スニチニブと相互作用を起こしやすい薬物を理解  
  する

概要

 腎がんのなかで最も多い腎細胞がん(RCC)は全腫瘍の23%を占める、決して多い癌種ではない。高齢になればなるほどその発生率は上がり、診断時年齢の中央値は65歳だ。40歳未満での罹患は非常に稀である。アメリカで2012年に腎がんと診断される人の数は約65千人、腎がんで死亡する人の数は約15千人といわれている。最も罹患率が高いのは北アメリカ人、スカンジナビア人だ。前述のとおり、腎がんのほとんど、約90%が腎細胞がん(RCC=Renal Cell Carcinoma)であり、さらに細胞型別に分類すると腎細胞がんの約85%が淡明細胞型(Clear Cell Carcinoma)だ。(1,2参照「chart12.pdf」をダウンロード)

危険因子

 高齢であることと共に、喫煙と肥満が主な危険因子として挙げられる。

 · 喫煙(腎がんになる可能性が2倍になるといわれている)

 · 肥満

 · 高血圧(男性のみ)

 · 家族歴(一親等の家族が腎細胞がんである場合、その家族が腎細胞がんになる確率は4倍になる)

 · VHL(Von Hippel-Lindau Disease): 遺伝病の一つ。VHL遺伝子の変異が増殖性血管病変の素因となる。VHL病の4060%が腎細胞がんになるといわれている。

 症状

 · 血尿(最も頻度が高い症状。およそ50%がこの症状を訴える。)

 · 側腹部痛 (3040%の患者に診られる。)

 · その他の症状として、発熱、寝汗、体重減少、全身倦怠など

 · 25~40%の腎腫瘤は腹部CTや超音波などにより偶然見つかることが多い

主な転移部位

· 肺 (50~60)

· 骨 (30~40)

· 肝臓 (30~40%)

· 脳 (5%)

ステージ別治療戦略

 基本的にステージⅠ期からステージⅢ期のいわゆる限局性腎細胞がんは、外科的切除(根治的腎摘徐術もしくはネフロン温存手術)が有効かつスタンダードな治療法である。外科的手術が施された後は約半年ごとの経過観察を2年間、その後は1年毎の経過観察を行う。2030%の患者に再発が見られ、その殆どは3年以内に起こっているというのが現状である。再発した場合は、切除不能のステージⅣ期と同様の治療を施す。切除不能のステージⅣ期もしくは再発例の一時治療には以下の選択肢がある。ここでは、筆者の経験上、最も多く処方が出ていた、スニチニブについて理解する。

· スニチニブ(カテゴリー1)

· テムシロリムス(予後不良患者ではカテゴリー1、その他の患者ではカテゴリー2B

· ベバシズマブ+IFN(カテゴリー1)

· パゾパニブ(カテゴリー1)

· 高用量IL-2(限定患者のみ)

· ソラフェニブ(限定患者のみ)

· 最善の支持療法

スニチニブ(スーテント®)

 米国で20061月に承認され、腎細胞がん、イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍(GIST)および、手術不能または転移性高分化型膵神経内分泌腫瘍(pNET)への適応がある。一方、日本では20084月に承認され、同様の適応がある。

 スニチニブは腫瘍の増殖、生存、転移並びに血管新生に関与する特定の受容体チロシンキナーゼのシグナル伝達を遮断するマルチキナーゼ阻害剤である。スニチニブの用量と投与スケジュールは適応により異なる。腎細胞がん、イマチニブ抵抗性の消化管間質腫瘍(GIST)の場合は50㎎経口一日一回の4週間投与、2週間休薬の一サイクル6週間であるのに対し、転移性高分化型膵神経内分泌腫瘍(pNET)の場合は37.5mg経口一日一回投与(休薬期間なし)である。

 主な副作用として、血小板減少、好中球減少、白血球減少、皮膚変色、手足症候群、食欲不振、疲労、下痢、貧血、高血圧、肝機能異常が報告されている。服薬指導する立場の薬剤師が念頭に入れておきたいことの一つが、まず高血圧である。血圧の定期的チェックとその値が目標値に達しているか、目標の血圧がいくつなのかを患者へ指導することが大事である。血圧の上昇は比較的早い段階で現れ、緩やかな上昇である。たいていの場合は降圧薬の調整により管理できるが、稀にスニチニブから他剤への変更を余儀なくされることもある。

 その他、注意を要するのは肝機能低下患者である。スニチニブは肝臓で代謝されることを十分考慮し、投与開始前と各サイクル開始前に肝機能をチェックを行う。肝機能低下が改善されない場合は休薬もしくは使用中止の措置をとる。QT間延長またはその既往歴のある患者へは原則禁忌ではあるが、特に必要とする場合は慎重投与となっている。循環器系の薬剤がスニチニブ処方医以外から出る可能性が非常に高く、患者の安全性を守るためにも薬剤師の役割は非常に大きい。しかし問題点の一つに挙げられるのは、患者のベースラインともなるスニチニブ投与開始前のQT間隔を検査値にアクセスすることが調剤薬局からでは困難という点である。

 消化管間質腫瘍(GIST)への適応があることからも、スニチニブが消化器官へ良くも悪くも作用することが伺える。吐き気や下痢などは制吐薬や止瀉薬の活用を活用する。

 手足症候群(HFS)も比較的頻繁に起こる副作用である。手足にハンドクリームを塗り、乾燥を防ぐことが最大の予防ではあるが、尿素40%とタザロテン0.1%含有の混合クリームやフルオロウラシル5%含有クリームがグレード2の手足症候群を58%減少させたという報告もある。

 今年2月、米国フロリダ州オーランドで開催されたASCO-GUで、「スニチニブの投与スケジュールを4投与2週休薬から2週投与1週休薬に変更することにより、毒性が軽減し、治療機関の顕著な延長が見られたことが明らかになった」という発表があった。これはレトロスペクティブな解析でのデータであるが、副作用を軽減し治療期間を延長させることができたという点で、私たちも取り入れることができる方法の一つであろう。この投与スケジュールの変更により生存期間にどのような影響があったのかも気になるところである。

 スニチニブはCYP3A4により肝臓で代謝される。CYP3A4阻害剤との併用においてはスニチニブの血漿中濃度が上昇し、CYP3A4誘導剤との併用においては血漿中濃度が低下する。そのため、併用するCYP3A4阻害剤や誘導罪については可能な限り他剤へ変更する必要がある。必要に応じて12.5㎎毎に投与量を増減させることも考慮しなくてはならないが、必ずしもこの限りではない。薬剤師として相互作用を確認し、その情報を医療チームへ還元させることが何よりも重要である。

練習問題

症例

50歳男性。血尿と側腹部痛を訴え、泌尿器科を受診。抗生物質を処方され一旦は症状が治まったものの、一か月後再び同様の症状が現れ再受診。腹部CT 、血液検査の結果、ステージ腎細胞がんと診断。

血液検査の結果:すべて正常値

既往歴:高血圧、うつ

喫煙 一日あたり1パックx 20年間

BMI30.8

ECOG PS: 0

 腎細胞がんに関する危険因子(Risk Factor)で正しい組み合わせを選べなさい。

a. 年齢、肥満、うつ、高血圧

b. 年齢、うつ、高血圧、ECOG

c. 喫煙、肥満、ECOG、抗生物質の使用

d. 年齢、肥満、喫煙、高血圧

 この患者は根治的腎摘除術のあと経過観察で定期的に受診していたが、手術から約2年後に再発していることが判明。スニチニブ50㎎経口4週投与2週休薬の処方が医師より出された。医師より「薬剤師から薬のことは聞いて下さい」と言われたとのこと。服薬指導をする上で、以下のうち間違っているものを選びなさい。

 a. スニチニブにより血圧が上昇する可能性もあります。血圧を頻繁に測定し、血圧上昇傾向がみられる場合は医師に相談しましょう。

 b. スニチニブによる様々な副作用を早期発見するためにも定期的な血液検査を欠かさないようにしましょう。

c. スニチニブにより血圧が上昇する場合もあります。降圧薬を服用している場合は2倍量を服用しましょう。

d. スニチニブによる手足症候群を防ぐためにも、手足の乾燥を防ぎ、クリームなどで保湿しましょう。

 スニチニブとの併用により、スニチニブの血中濃度を下げるのは以下のうちどれか。

a. イトラコナゾール

b. アジスロマイシン

c. フェニトイン

d. グレープフルーツジュース

e. オンダンセトロン

参考文献

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 2. スニチニブ添付文書 20131月改訂(第8版)

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 5. Oncology Pharmacy Preparatory Review Course 2012. Bladder, Renal cell, and Testicular Cancers. 1029-60.

 

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